映画『ムーンライト』を見て~過去とは断ち切れない地続きの「現在」

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 「ムーンライト」は、第89回アカデミー賞で8部門にノミネートされ、作品賞などを受賞したことでも昨年もっとも話題になった映画のひとつだ。

 

上映時は全く知らなかったが、アカデミー賞受賞のニュースと、ツタヤに大きく張り出された、青い光に照らされた黒人の顔(ちなみに原案が「In Moonlight Black Boys Look Blue」というらしい)が印象的なポスターを見て気になっていたものを、やっと今日見終えた。

 

本作は、小学生?時代、高校時代、そして大人になってからの、3つの章に分かれている。貧しく治安の悪い街で、麻薬に溺れる母親のもとで育った気の弱いシャロンが、いじめや親友の裏切りを通して、分厚い鎧をまとった大人へと成長するものの、親友との再会を通して、自分のアイデンティティを見つめなおす…そんなストーリーだ。

 

子ども時代に忘れたくなるような経験をした人が大人になった時、過去をどう解釈しなおすのか、どう折り合いをつけて、大人として平気なフリで社会生活を営んでいくのか…ムーンライトで描かれたシャロンの孤独や苦しみ、そしてそれを忘れたくても背負って生きざるを得ない姿が、シャロンほどのつらい経験をしていなかったとしても、大人になった私たちにその普遍的なテーマを静かに突きつけてくる。

 

 

子ども時代、学生時代を経て大人になった私たちは誰もが、過去とは断ち切ることのできない地続きの「現在」を生きている。そしてその「過去」である子ども時代は、自分ではどうにもならなかった環境で生きていたはずだ。大人になってからの人生すらままならないのに、変えることも選ぶこともできなかった子ども時代のこと、育ってきた環境のことを背負いながら生きていると、時々「まっさらな状態からやり直せたら」と思う。「子ども時代に経験したことや両親に教えられたことを白く塗りつぶして、何にも影響されていないゼロの状態から始められたなら、今の自分は堂々と、一体何を選ぶのだろう。

 

でもそうはいかない。生きている以上、今はどうしたって過去から地続きだ。都合の悪いことは都合よく忘れられればいいけど、どうやらそうはいかない。

映画は、シャロンが親友のケヴィンと再会して、寄り添いあうシーンで終わる。弱い自分を克服するために体を鍛え、薬の売人になったシャロンが、臆病だったころのシャロンを知るケヴィンと再会したことで、どんな未来を歩んでいくのか…そんなことが気になると同時に、過去を断ち切れない自分が、これからどんな選択をしていくのか…そんなことを思わずにはいられない映画だった。